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新潟地方裁判所 昭和34年(行)6号 判決 1962年11月27日

原告 曾根清一

被告 塩沢町長・塩沢町議会

主文

原告の訴はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

事実

一、当事者双方の申立及び主張は別紙のとおりである。

二、証拠<省略>

理由

まず本件訴が適法であるか否かについて判断する。本訴は被告塩沢町長が昭和三十四年三月二十五日原告に対してなした「地方公共団体の意思決定機関は議会である。首長はその意思に基いて執行する。」との回答の取消並びに被告塩沢町議会が同月九日になした「塩沢町は分町せず。」との決議の取消を求めるものであるが、被告町長の原告に対する右回答について考えてみるのに、その文言自体から窺えるところは、単に地方公共団体の首長がその職務執行に当り当然遵守すべき一般的基準について言及したにすぎず、それ自体何ら法律上の効果を生ずるものではない。また仮りに原告が主張するように、右回答が、原告の被告町長に対する申請についての拒否行為であると解しても、原告の右申請の内容とするところは、その主張によれば、旧塩沢町、同石打村、同上田村が合併するに際し、特約条項として右各町村議会の議決を経た合併基本協定第二十五条第三項前段により、合併後の塩沢町は、同町発足後一年以内に新六日町と対等合併が実現出来ない場合は、旧上田村が新六日町に合併することを無条件で承認する義務があり、従つて、右義務に基き、被告町長は同県知事に対し、旧上田村の分町及び新六日町との合併の申請手続をなすことを求めるというのであるが、市町村の廃置分合上の諸手続は、関係市町村及び都道府県の各機関が法律上の規定に従つてのみなすべき公法上の行為であるから、町村合併の議決に際し、その合併当事者たる町村の間に原告主張のような特約条項が存在したとしても、かかる特約条項は何ら法律上の効果を生ずる余地がないといわねばならない。(仮りにかかる特約の効力を認めるとしても、住民としての資格で原告が、被告町長にかかる申請をなしうるとする明文上の根拠もない。)従つて被告町長が原告の右申請を拒否したとしても、右拒否行為により申請者たる原告の法律上の利益が侵害されたということは出来ない。してみれば、右回答はいずれにせよ法律上の効果を欠く事実行為に留まり、抗告訴訟の対象となるべき行政庁の処分とは到底解し難いといわざるを得ない。

次に被告町議会の決議の取消を求める部分について考えてみると、右決議は、単に公法人たる塩沢町の内部的な意思決定にすぎないから、これによつて原告の法律上の利害に何ら影響を与えるところはなく、従つて、前記回答の場合と同様抗告訴訟の対象とはならないものというべきである。

以上によれば原告の本件訴はその本案について判断するまでもなく、何れも不適法であつて却下を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井省己 龍前三郎 荒木勝己)

別紙

(請求の趣旨)

一、被告塩沢町長が昭和三四年三月二五日原告に対してなした「地方公共団体の意思決定機関は議会である。首長はその意思に基いて執行する。」との回答を取消す。

二、被告塩沢町議会が昭和三四年三月九日なした塩沢町は分町せずとの決議を取消す。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

(請求の原因)

一、原告は塩沢町及び旧上田村の住民であるが、塩沢町は昭和三一年九月三〇日の旧塩沢町、同石打村、同上田村の左記特約条項を含む合併基本協定に基く右各町村議会の合併議決を経て合併成立したものである。

(合併基本協定第二五条)

1 旧二町六村(新六日町、新塩沢町)の合併を前提として昭和三一年九月三〇日に塩沢町、石打村、上田村とで合併を議決する。

2 新町発足後直ちに合併促進のため、協議会を設け新六日町と速かに対等合併する。

3 新塩沢町発足後一ケ年以内に新六日町と対等合併が実現出来ない場合は旧上田村は新六日町に合併することを新塩沢町は無条件で承認する。

この場合は石打村は有権者の過半数の意思によつて去就の自由を認める。

二、新六日町と塩沢町との対等合併は昭和三四年に至るまで実現出来ないので被告塩沢町議会は前記合併に関する特約に基き旧上田村を塩沢町より分町し、旧上田村と新六日町との合併を無条件で承認すべき義務を負担しているにもかかわらず、昭和三四年三月九日塩沢町は分町せずとの議決をした。

三、そこで原告は右特約条項により塩沢町議会は旧上田村を分町し、同村と新六日町が合併することを承認したものとして、被告塩沢町長に対し右分町及び合併の申請手続をする様求めたところ、被告町長は昭和三四年三月二五日原告に対し「地方公共団体の意思決定機関は議会である。首長はその意思に基いて執行する。」との回答をなし、原告の右要求を拒絶した。

四、しかして前記合併に関する特約は、塩沢町成立後一ケ年以内に同町と新六日町とが合併出来ない場合は、被告塩沢町議会は旧上田村を分町し同村が新六日町と合併することを無条件に承認することにより旧上田村住民の意思、―旧二町六村(新六日町、新塩沢町)の合併を前提として旧上田村と塩沢町との合併を承認する―を尊重し、その利益を守るため特に前記合併基本協定の内容として、関係町村議会の議決を経たものであつて、被告塩沢町議会は前記特約により旧上田村の分町決議をなすべきにもかかわらず前記の如く分町せずとの決議をなしたものであるから右決議は違法であつて取消されるべきである。なお被告塩沢町議会の議決は塩沢町の内部的な意思決定であるが、被告議会は法人格を有する塩沢町の最高意思決定機関であり塩沢町長は右議決に拘束されるのであるから、訴訟の対象となるものと解する。又被告塩沢町長は前記特約により塩沢町議会が旧上田村を分町し同村と新六日町が合併することを承認したものとして、地方自治法第七条により新潟県知事に対し右分町及び合併の申請手続をなすべきであるにもかかわらず、前記の如く右手続をしない旨の回答をなしその職務執行行為を拒否したものであるから右回答は違法であつて取消されるべきである。

しかして原告は右違法な議決及び不行為により上田村住民たるの権利を強制的に失わしめられ自己の欲しない塩沢町住民たることを強制され、村住民権という公法上の権利の侵害を受けたのみならず、塩沢町長より塩沢町民として町民税の納税を命じられる等私法上の権利の侵害を受け、右議決及び不行為につき重大な利害関係を有するものであるから、右議決等の取消を求めて昭和三四年三月二九日新潟県知事に対し訴願を提起したが、同年六月二五日却下の裁決を受けた。よつて右議決等の取消を求めるため本訴請求に及ぶ。

(請求の趣旨に対する答弁)

一、本件訴を却下する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

(本案前の抗弁)

原告主張にかかる被告塩沢町長の回答は事実行為であつて行政上何等具体的な効果が発生せず原告の権利義務に法律上の影響を及ぼさないものであり、又被告塩沢町議会の決議は公法人たる塩沢町の内部的意思決定にすぎず塩沢町住民の権利義務に関する直接の処分ではないから原告は右回答及び議決の取消を求める利益を有しないものであつて本訴は不適法なものとして却下されるべきである。

(本案に対する答弁)

原告が塩沢町及び旧上田村の住民であること及び塩沢町が旧塩沢町、石打村、上田村の合併により成立したことは認めるが、原告の主張にかかる合併基本協定の内容は不知。

被告町議会が原告主張の如き内容の議決をしたことは認めるがその余は否認。

原告がその主張の如き要求をし、被告町長がその主張の如き回答をしたことは認めるがその余は否認。

否認

原告がその主張の日時に主張の如き内容の訴願を提起し却下の裁決を受けたことは認めるがその余は否認。

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